soil

土地を確保し、何をどれだけ作りたいか決め、売り先まで決めたら後はいざ実行するのみです。

野菜の栽培は晴れや雨、台風などの自然相手のため、天候に左右されやすいのは確かですが、良い土壌で野菜を作ればその変数を極力減らせます。

反対に、天候さえ良ければどれだけ悪い土壌でも良い野菜を作ることができます。

半年や1年といった短期で野菜作りをするのではなく、何年も何年もといった長期的に営むことを考えると、自分の力の及ばない範囲での変数は極力減らしたいですよね。

ここでは、良い土壌を目指すための土作りについて、お話しします。

農家になるための準備

【就農(=農家になる)までの道のり】として、必要なものは3点あります。

農家になるための準備

1.土地の確保
2.経営計画
3.栽培技術

この3点が必要になります。

1.土地の確保

2.経営計画についてはこちらをご覧ください。

 ‎この記事では

3.栽培技術

にフォーカスをして説明していきます。

土作りとは

「土作りが大事だ」

「うちは土作りにこだわっています」

といったことを聞いたことがありませんか?

そこで質問です。土作りってなんですか?土作りの目指すところは何ですか?

この記事を読むと、この問いに答えられるようになります。

それではまず初めに、良い土と悪い土について比べてみましょう。

良い土と悪い土

良い土とは、なんでしょうか?

良い土とは

・良い匂い
・水はけがよい
・病気になりにくい
・作物がすくすく育つ
・肥料をあまりやらなくてもよい

 

つまり、誰が作ってもある程度おいしい野菜ができる、再現性の高い土ということです。

 

反対に悪い土の特徴です。

悪い土とは

・病気になりがち
・水はけが悪すぎる
・作物が育ちにくい
・虫が大量に発生する
・生ごみの臭いがする
・肥料っ気がなくスカスカ

悪い土とは、良い土の反対で、何かと手間のかかる状態の悪い土です。

良い土と悪い土のイメージがついたところで、ではどうすばいいのでしょうか。

良い土の3要素

Soil improvement

悪い土、普通の土を良い土にするためのポイントは3つです。

生物性

物理性

化学性

これらを整えることです。

良い土とは生物性×物理性×化学性の積からなっています。

3つの要素のうち、どれか一つを特化するのも、バランスよく数値を上げるのも良いです。

とにかくゴールとしては良い土を作ること。

理由は良い土なら、気候変動の影響を受けにくく、害虫や病気の耐性が強いため再現性が高い。

そのため、計算通りに栽培計画、収支計画が進みやすいです。

一見、土作りは儲かるということへは遠回りかもしれませんが、計画的に事業を進めるためには欠かせないことです。

それでは土作りの3要素について、順番に説明します。

土壌の生物性

Microbial test” Microorganism

畑(土壌)の生物性とは、いかに多くの数の微生物が、多様な種類の微生物が存在しているか、ということです。

土壌の中はトラクターだけではなく、微生物も耕してくれます。

微生物が土の中で生きていく中でエサを食べ、また、微生物自身もさらに大きい生物に食べられます。

そうやってたくさんの微生物が生活していく中で食物連鎖が起こり、土が耕されていきます。

トラクターで物理的に耕すこともありますが、それと同様もしくはそれ以上に微生物も土を耕します。

微生物が耕すので、トラクターが不要というわけではありません。

表層から10-20センチを高速で耕すならトラクターで、その奥深くに根っこを張れる環境づくりには微生物を、というイメージです。

また、病気のもとになる菌・ウイルスも生き物です。たくさんの微生物によって食物連鎖を高速で行うことで、悪い菌よりも有用な微生物を増やすことができれば、病気になりにくくなります。

微生物の多様性を整えることであらゆる種類の病気、害虫に耐性のある畑だと考えられています。

畑にはたくさんの数の微生物が、たくさんの種類の微生物がいる状態を目指しましょう。

そのために、微生物を増やす工夫と減らさないような工夫が必要です。

微生物を増やす

微生物を増やす

・微生物資材の散布
・堆肥

微生物を増やすためにはこの2つの手法が考えられます。

土作りには堆肥、栽培管理には微生物資材の散布をする、というのが一番手間のない作業だと思いますが、最速で良い土を作る場合は土作りの時に微生物資材の散布も同時にできるとよいかと思います。

微生物資材とは

微生物資材とは、読んで字のごとく、微生物を大量に含ませた液体、固体の資材のことです。使いやすいのは、液体です。

液体は希釈するため、保管が容易、必要な時に必要な分だけ使えるといった特長があります。

微生物資材は見た目こそ、モノですが、実際は生き物です。

温度や湿度、天候によって微生物の状態が変化しやすいため、できるだけ場所をとらない、管理コストのかからないものを選びましょう。

1日炎天下に置きっぱなしにしてしまうと、微生物が死んでしまって全く効果がなくなってしまうものもあります。管理には十分注意しましょう。

液体の資材をおすすめしていますが、固形でも素晴らしい資材はたくさんあります。

一度試しに使ってみたいという方は手軽さから液体タイプがおススメです。

微生物資材のメジャーなところでEM菌資材、光合成細菌資材、えひめAIといったものがあります。

同じEM菌配合資材でも、配合割合や成分はメーカーによって違います。あらゆる種類のものを試してみましょう。

 

微生物資材の注意点

微生物資材も良い面ばかりではありません。

肥料系資材と違い、微生物資材は効果が目に見えて表れにくい、効果が出るまでどれくらい時間がかかるかわからない。といったことがあります。

肥料だったら散布して数日~数週間で野菜の状態が変わるので、使った甲斐や効き目がわかりやすいですが、微生物資材は目に見えてわからないものが多いです。

毎週、毎月のルーティーンにしてコツコツ続けていきましょう。

また、微生物資材を撒く行為そのものにちょっとした満足感があるため、「おまじない資材」と揶揄されることもあります。

日頃から畑の機微に目を光らせるのはもちろん、特定の機関へ土の一部を提出し、畑の微生物量を検出してもらうのも良いと思います。

微生物を減らさない工夫

微生物をうっかり減らしてしまう行為として土壌消毒や殺菌剤が挙げられます。

たまに「微生物資材と殺菌剤は混ぜてもよいの?」という方がいます。

よくよく考えてみたらわかるかと思いますが、もちろんだめです。というか、意味がない行為になります。気を付けましょう。

さて、土壌消毒は連作障害やセンチュウ対策にとても効果的です。

しかし、土壌の中にいる菌・虫をすべてリセットするため、「微生物を増やそう」と意気込んでいる方は逆効果です。

かといって、土壌消毒がすべて悪だ!というつもりは毛頭ないです。

バランス派の方へのおすすめとしては、新規で開拓した畑の草のタネを死滅させる目的、畑に巣くう菌を一度殲滅させたいというときにはとても効果的です。

土壌消毒をしっかり行って、いざ野菜を作ろうというときにはじめて微生物資材を撒いた土作りを行うのも良いでしょう。

もちろん、いかなる農薬も使用したくないという方もいるのはわかります。

農薬が善か悪かよりも、良い土の状態への最短距離として、土壌消毒も十分ありだと考えます。

自分が目指す畑、ゴールへのイメージを明確にして、決して手段と目的を混同しないようにしましょう。(これは過去の私に言っています笑) 

土壌の物理性

roots

 

畑(土壌)の物理性について。

物理性とは、作物の根を張る面積のことを指します。

肥料がたくさん含まれていて、微生物もたくさんいる畑だとしても、作物自身の根を張れる面積が表層から5センチ程度だと、それより深くにある肥料は吸うことができず、無駄になります。

反対に、少ない肥料しかない畑でも、何十センチも深く根を張ることができれば、そこから肥料をかき集めることができます。

畑の肥沃度とはベクトルの違う話になるため、感覚として掴むことが難しいかもしれませんね。

作物の健康を考える時に、根っこを広く、深く張る状態を目指しましょう。

土壌の物理性を改善するには

物理性の改善とは、シンプルに「作物がどれだけ奥深くまで根を張るか」ということです。

 

物理性の改善

・トラクターで深く耕す
・微生物により深く耕す
・土中深くに有機物を送る
・太陽熱養生

改善方法としては上記の施策が考えられます。

トラクターで物理的に深く耕す方法は一番手っ取り早いです。

もっとも、物理性が悪い、ガチガチの畑を耕そうとするとトラクターのロータリーが壊れてしまう可能性がありますが、できるだけ深く耕すことで物理性が改善されます。

しかしトラクターだけでは限界があります。そこで先ほど述べた、微生物の力を使って耕す方法です。

微生物が大量に存在し、食物連鎖を繰り返すことでその糞尿や死骸により、それをエサにするものが現れ、生活し、……といった繰り返しで畑はどんどん耕されていきます。

しかし、3年、5年もしかしたら10年と時間がかかってしまいます。

そのため、物理性の改善としての微生物の使用は現実的ではありませんので、次の方法です。

緑肥のチカラ

土中深くに有機物を送る。

微生物の力を借りるのではなく、土中深くへ物理的に有機物を送る方法です。

みなさんも経験があると思いますが、カッチカチの土をスコップで穴を掘り、埋める。この作業だけで土が柔らかくなったという経験、ありませんか?

これを微生物の力ではなく、植物のチカラで行います。

そのために使われる植物が「緑肥」とよばれる植物です。

読んで字のごとく緑色の肥料、自然の肥料のため、緑肥・緑肥作物と呼ばれます。

緑肥作物についてくわしくはコチラをご覧ください。

ここでは物理性改善にとても効果がある作物、ソルゴーを紹介します。

その前に、このような話は知っていますか?

畑に植えてある作物、地上に出ている状態と、土中で根を張る状態は線対称に近い状態になっているということ。

例えば背丈が大きなトウモロコシ。トウモロコシのあの身長と実の重量を支えている根っこはどれだけ深く張っていることでしょうか。

根の太さや細さの違いはあれど、概ね地上部と同じかそれ以上根を張らないと支えきれません。

つまり、背丈の大きい作物の育っている畑の土は物理性に富んでいる、ということです。

さらに、背丈が大きくなりやすい作物の根張り力を使うことで、自然の力で畑を耕すことができる、ということでもあります。

そのため、トラクターのロータリーを深く入れるのをためらうような、土壌がガッチガチの畑ではソルゴーをまくことをおすすめします。

ソルゴーは根張り力が優れているため、ガチガチ土壌でも根を深く張ります。その分、地上部も大きく育ちます。

ソルゴーを植え、チョッパーで粉々にし、トラクターですき込む。この作業をするだけで土壌が柔らかくなり、根を張る地下部が一気に拡がります。

 

太陽熱養生処理

さらに、ソルゴーを丁寧にすき込んだ後、太陽熱養生を行えばなおよいです。

太陽熱養生とは、適度な水分がある状態の畑(雨が上がった次の日くらい)に透明ビニールをかけ、地温を上げることです。

ビニール内で蒸発と水分浸透を繰り返すため、地表の雑草のタネや菌を殲滅し、地下部へ深く深く熱を届けます。熱を届けることによって微生物が活性し深部の有機物の分解が活発になり、土壌がふかふかになります。

太陽熱養生処理を行う時期は梅雨明けの7月~9月の、最高気温が30度を超えるような日が続く時期がベストです。この時期に透明ビニールを飛ばないように張り、地温をぐんぐんあげましょう。

以上が土壌の物理性を上げるための方法です。

 

物理性の改善まとめ

・トラクターで深く耕す
・微生物資材を撒く
・緑肥作物(特にソルゴー)を育てる
・太陽熱養生処理を行う。

 

ここまでやれば、見違えるようなふかふかな畑になります。ぜひお試しください。

 

土壌の化学性

chemical

化学性を整えるとは、土壌診断によって正しい施肥設計がされている状態です。

土壌診断でわかることは、例えば土の中の窒素がどれくらいあるか、pHはどれくらいかがわかります。

診断する会社によりますが、栽培作物を指定すれば診断結果により「窒素分がこれくらい足りないので○○という肥料を△△kg施肥しましょう。」などと教えてくれます。

土壌診断のチェック項目

・N・P・Kの含有量
・土の仮比重
・C/N比
・CEC

土壌診断のチェック項目としては上記があります。(ほかにもたくさんありますが…)

これらを整えるための選択肢として、各種肥料が存在します。

過去の私のような、有機肥料こそが正義といういわゆる有機肥料原理主義者の方へ言いたいこととして、良い土を作るための要素である生物性・物理性・化学性があります。

その中の化学性を構成する要素として、NPK、仮比重、C/N比、CECなどがあります。

有機肥料に期待する肥料分の、土壌に与えるインパクトとは、全体像からみるとなんと詳細なことを述べているのでしょうか。

確かに、肥料が味を左右する、ということに関して、異議はありません。しかし、肥料以外で味に与える要素はかなり多いのです。

もっと全体像を把握して、効率的な農業生産ができるような最適解、理想の土壌へするための与えるインパクトが大きい行動を心掛けましょう。

ちょっと脱線しました。

注意しなければいけないことは、化学性が良い畑、土壌内に肥料っ気が適切な畑だとしても、作物の根っこがそれを吸収するかどうかは別問題ということです。

あくまでもテーブルに乗せられた料理の栄養バランスの話なので、その料理を口に運んでよく噛んで消化するのはまた別の話、ということです。

まとめ

生物性、物理性、化学性。

良い土の3要素についてザッと説明しました。

良い土とは、これらの3つの要素が整っているため、栽培の再現性が高い畑になります。

ちょっとした気候変動や天災に負けずに、安定した供給を可能にします。

安定的に野菜ができる畑は、何を作ってもおいしいものができやすいです。

野菜を安定的に供給するための要素としては最低限知っておきたいお話しでした。