マッキンゼーが読み解く食と農の未来
この本を読んでみました。
この本は、農業・食ジャンルで何が起こっているか俯瞰的にとらえるにはもってこいの1冊です。
マッキンゼーが読み解く食と農の未来の概要
日本の農業と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
「食物自給率が低い」とか「JAの旧態依然の体質」、「少子高齢化でお先真っ暗」
ポジティブな面では「イオンが力入れているらしい」とか「オイシックスがすごい伸びてる」など。
この本はそのような個別具体的な農業ではなく、日本の農業の姿や立ち位置を世界と見比べて俯瞰的にとらえるものです。
さすが「マッキンゼー」の冠の通り、農業という幅が広いものを200ページほどで網羅的に、かつお腹一杯になるほどまとめてあります。
作者の情報
著者は
アンドレ・アンドニアン
川西剛史
山田唯人
この3名の共著です。
マッキンゼー日本支社長、農学博士、米国公認会計士保持者の3名です。
コンサル勤務の出版本でよくある、必要以上に複雑化された図解と原型を見失うほどの抽象化されるものがよく見受けられます。本書はそんなコンサルアレルギーでも非常にわかりやすて読みやすい構成です。
参考文献もどこのだれが書いたか全くわからない論文ではなく、農業ビジネスマガジンや日経BPのもの、オプティム社や農天気社のホームページですので、親しみやすさが伝わってきますね。
本を読むとき、はじめに→目次→あとがき→参考文献の順番に読む私のような読者は、本を開いて数分で心をつかまされてしまうでしょう。
この本のざっくり内容・要点3つ
私がためになったと感じたポイントは3点です。
1.貿易産業としての農業
2.食と農におけるタイムマシン経営
3.イケてる企業
1.貿易産業としての農業
世界の国々と取引するにあたって、農業はとても変数が多い産業です。
変数には環境要因と政治要因があります。
環境要因には人口増加や地球温暖化。
政治要因は自国産業保護のための関税や政策などがあります。
まずは環境要因から。
この先10数年で中国の人口を抜くといわれているインド。ただインドの1人当たり食肉消費量は中国の10分の1以下と言われています。
人口が増える→アメリカ型の食生活人口が増えるという考えは過去のもの。インドは10年前の中国とはまた違った形の経済成長を遂げると考えられています。
地球温暖化も農業にとっては大きな問題です。
ブラジルなど南半球の農業が盛んな地域は気温が上がりすぎるとどうなってしまうのでしょうか。栽培ができる品種や農法が開発されるのが先か、気温が高い地域では農業競争力が落ちるのか待ったなしの問題です。
また、ロシアやカナダなどの国々は氷が溶けて農業用地が広がります。さらに新たな港ができ、輸出地帯が生まれる可能性も考えられます。
次に政治要因。
コストカーブという考え方をご存じでしょうか?
コストカーブとは横軸に輸出可能量、縦軸に生産にかかるコストをとった図です。
左側から輸入コストの低い国順に並べ、右に行けば行くほどコストの高い国がきます。
たとえば鶏肉のコストカーブだと左にブラジル産や中国産、右に日本産の物が並びます。
質が同等だとすれば左側の物から順に売れて、右の物は最後に売れていきます。
農産物は左と右の価格差きわめて小さいといわれています。
金や石油のコストカーブは左と右の価格差は3~4倍の物もありますが、農産物はほぼ横ばいです。
そのため、普段はコストカーブの右側に現れるA国の商品が気候変動や政策による関税や補助金の加減で右側に移動するということがよく起きます。
コストカーブの変動が激しく、その要因が極めて単純に引き起こされる特殊性があるということは初耳でした。
このことがわかっていると国内はもちろん、海外政策の一挙手一投足も目が離せませんね。
2.食と農におけるタイムマシン経営
この章ではアメリカの大農家のテック導入の紹介です。
・アメリカでは6割の農家がGPS自動操縦や収量モニターを採用
・カメラ搭載ドローンで畑の見回り、種まき・肥料・農薬散布
・農業AIが生産者の意思決定を補助
・ゲノム編集(≠遺伝子組み換え)の農業利用
農業先進国ではアグテック(=アグリ×テック)がここまで進んでいますいわんや日本をや・・・ということです。
しかし、日本ではいまいち普及していません。
規模の違いはあれど、アグテックとしてのベクトルは同じ方向を向いているはずです。
日本でいまいち普及していない理由の一つとして、
GPS搭載トラクターの費用感です。
これには2種類のGPSが必要だといわれています。
1つはトラクターの車体が今どこにいるかというGPS。
もう一つはトラクターの爪の深さや位置を把握するGPSの2種類が必要です。
とくに後者のGPSがとても高い。トラクター本体の値段以上にするとかいわれています。
今後、大量に流通して価格が下がるのが待ち遠しいですね。
3.イケてる企業
本書で出てきた企業を挙げていきます。
この業界に興味がある方や、就職・株式投資を考えている方は別途ググることをおすすめします。
農作業TEC
テレフォニカ社
→畑のモニタリング、見回りや以上の検知
ドローンシード社
→種まきや肥料の散布、害虫の駆除をドローンで。
OPTIM
→スマートグラスやドローン。農業EXPOで一等地に出店しているのでおなじみですね。
eFarmer社
→無人のトラクターやコンバイン
Prospera社
ソフトバンク
ルートレックネットワークス
セラク社
→農業者向けAI。意思決定のサポートなど。
農業インフラTEC
Farmland Partners
→農地デベロッパー
リデン
→土地確保補助
アグミル
→農業版価格ドットコム
八面六臂
プラネットテーブル社
ブレイン社
→飲食店向けeコマース、物流合理化
代替肉・加工肉
Exo
→昆虫食
Essento
→ミールワーム
Ynsect
→ミールワームAI
Finless Foods
→魚の幹細胞を培養
Parfect Day
Sugalogix
→酵母や発酵を用いた人工ミルク、人口母乳
Clara Foods
→人工卵白
インテグリカルチャー
培養肉の大量生産
感想
冒頭述べたように、農業の業界を網羅的にとらえるには最適な一冊です。
外交や食料安全保障の観点から始まり、農業技術革命や新サービスまでサクッと紹介してくれます。
あっさり読める割には内容もしっかりしていて、とても読後の満足度が高い本でした。
おすすめです。