この記事では井本善久さんの著書、【ビジネスパーソンの新・兼業農家論】の書評・感想についてです。
ビジネスパーソンの…という枕ですが、農家はどう感じるか、どう思うかについて書いていきます。
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ビジネスパーソンの新・兼業農家論とは?
ある時は都市で仕事をし、またある時は田舎で農家をする。この本では、そんな兼業農家の働き方や兼業農家になるべき理由について語っています。
こんな人におすすめ
この本は、「働くことに疲れたなぁ」「今あるメインの仕事とは別に、もう1本の軸を見つけたい」そんな思いを持つ20代後半~30代後半に向けられて書かれた本だと初めは感じました。
しかし、読み進めていくと本書を読むべきなのは、新規就農10年前後のいわゆる若手農家です。
「農業ってこうやればもっと楽しいじゃん!」「こうやればもっと儲かるじゃん!」というように仕事とプライベートの垣根をなくしたイケイケの作者からの舌鋒鋭いメッセージ。
そのほかにも…
「加工で売上ウン十倍」
「農家たる者ビジネスパーソンであれ」
「ポスト資本主義は自然主義だ」
「いまこそ!有機農業!」
これを見て読む気が削がれた方、ちょっと待ってください。
現実はなぁ…なんて先輩風吹かすのはもう少し待ってください。
私がそんなあなたにこそこの本を読んでほしいという真意は、「昔キラキラしていたあなたと、今このキラキラなメッセージに直面しむず痒い感情を抱いているあなた、そこの差異を見つめてみませんか」これです。
この本は「あの時、キラキラしてとがりまくっていた数年前のあなたがタイムマシンに乗って今のあなたに会いに来た。」そんな本なのです。
あなたは過去のあなたにあこがれるような生活、送れていますか?
2秒以上止まった方は読んでみましょう。
もちろん、脱サラして農業やろっかなぁ~っていう方には背中を押してくれる一冊です。
あらすじ
ご家族のことがきっかけに食・暮らしについて興味を持った著者。
元々都市で仕事をして、ネットがつながればどこでも仕事が成り立つ業界にいたそうです。
そこで、働く一辺倒から暮らしへ軸足を移して農業を始めます。
一カ月の半分は都心で、もう半分は田舎で悠々自適な生活を送る。
都会の喧騒からほどよい距離を保ち、小さな農業で大きな価値を生み出す。
まさに副業農家あこがれのライフスタイルを送っています。
さて、本書はなぜ農家のすすめではなく、兼業農家もとい“新・兼業農家”のすすめなのでしょうか。
著者曰く、大多数の農家は儲かっていない!
なぜなら現在の日本の農家の6割は年商100万円以下、農業人口は168万人、兼業農家8割、1業者当たりの平均耕地面積は2.5ha。「先祖代々守ってきた土地だから」という理由で収入面関係なく感情的に思考停止し、営農する。時代遅れのJAのせいで農家個人の営業力の欠如。
などといった理由が挙げられています。
そこで新しい兼業農家のすすめを唱えます。
新・兼業農家とは、副業ではなく複数の活動を同時並行するパラレルワークをし、生産者ではなく経営視点を持ったビジネスパーソンとして、夢を明確に描いて有機的に繋ぐ。そんな農家のことです。
なぜ新・兼業農家を勧めるのか。
それは著者の原体験に、商いより暮らしの方が大切と感じることがあったそうです。
農業を分解すると暮らしと商いに分かれる。商いより暮らしの方がはるかに重要。そのため著者は「農業」という言葉より「農」という言葉を好んでいます。
食という日々のエンタメを最高の素材、ストーリー、想いで味わう最高の暮らしがそこにはありました。
著者が体験した、資本主義から離れた自然回帰なライフスタイル。どちらか一方のみを選択するのではなく、都市と田舎を行ったり来たりすることでどちらの生活も刺激を受け愛好循環が生まれます。
いかにして新兼業農家になるのか
農の面白さ、新兼業農家のすばらしさを語ったうえで、いかにして新兼業農家になるのか。ポイントは小さいエネルギーで大きな豊かさ。数値で言うと0.5haで年商1000万円稼ぐ。
小さなエネルギーで大きな豊かさを生み出すためのポイントは3つです。
・夢をかなえるための計画
・買うより借りる
・自然
農業とは、種をまくと芽が出て、実ります。実ったものを収穫し販売することにより売り上げを立てます。この販売に当たる部分が夢であり、出口になります。これらの粒度をあげ、具体的にイメージし、種まき(=今からの行動)やその計画に落とし込む。農業には夢をかなえるためのエッセンスが詰まっています。
また、小さいエネルギーなので所有よりシェアすることが必須です。
基本的に買うより借りる。融資に奔走するのではなく自分と向き合うといった考え方が求められます。
最後のポイントは自然。自然相手の仕事なので、壁にぶつかったら答えは自然の中にあります。「人付き合いが苦手だから農業へ」という考えは危険です。なぜなら農業を仕事にすると一般的な会社以上に狭い村社会・狭いコミュニティで生きていかざるを得ません。
キーワードはアウトプット、ブランディング、マーケティング、能動的に学ぶ姿勢です。
農業にはチャンスがある。人と人との出会いを大切にし、壁にぶつかったら答えは自然の中にある。
これらを常に頭に入れておきましょう。
ビジネスパーソンの新・兼業農家論のGOOD!
昨今、トレンドである副業というテーマに農業を掛け合わせたこの切り口は面白いと思いました。副業・パラレルワーカーの先駆けである兼業農家という働き方はアリ、というより成立して久しいと改めて気づかされました。
筆者が尊敬するスゴイ兼業農家も農業×サーフィンや農業×キャンプ場などといった副業事例が多数あるため、頭の体操・パラダイムシフトが起こります。
数年前まで農業業界的に大資本で参入するケースが多々ありましたが近年は減ってきています。そんな中、小資本でも参入できる事例やミニマムスタートの勧めは、これから農業を志す方にとって励みになると思いました。
農業に全く興味がない人が入門書として読むと、農業をやりたくなるような臨場感を感じます。
ビジネスパーソンの新・兼業農家論のBAD
農家の6割が年商100万以下云々。について。従来の農家ってそんな儲かってないっけ?というくらいの数字ですね。統計は兼業農家を広義に捉えすぎているので、まぁまぁ広めの庭で菜園して、たま~に道の駅に出荷するレベルも統計上農家としてカウントされているのではないかと。直売所で野菜を購入したことがある方はご存知かと思いますが、出荷者の一定数は定年後、趣味で農業を始めた年金生活者です。彼らの収入は年金と野菜売上になるため、年商(=売上)100万円以下の農家がほとんどです。その方たちを含めている統計で日本の農家を憂いているのは正直???です。
この統計のトリックは頻出ですのでご注意を。例えば食料自給率とか。
若い農家(40歳以下)だと、兼業は割と当たり前の考え方です。常にリスクをヘッジしながら事業を行います。農家だったら野菜関連の仕事、例えば地域の草刈りやトラクター、コンバインのオペレーター、配送屋など。農家に限らず脱サラを志すとリスクヘッジを考えます。ですので、脱サラして農家になるつもりの方が本書を手に取ると、兼業・副業なんて当たり前じゃん。と思うでしょう。
著者が何度も「商いより暮らし。ポスト資本主義は自然主義」と書いている割には、スゴイ兼業農家紹介や加工品の事例で売上60倍!や年商○○円!というキラキラした数字で煽っています。慎ましい生き方と売上アゲアゲ農家。どちらが良いとか悪いとかではなく、著者のポジションがイマイチ掴みきれない印象を受けました。
理想の暮らしを持続させるには持続させうる軍資金が必要なので、効率よく稼ぐ必要があります。商いの金を稼ぐというニュアンスを嫌気されたのか、商いと暮らしを切り離していますが、なかなか切り離せないのではと思いました。
まとめ
農業従事者はこの本を読んでどう感じるか知りたいです。
冷めた目なのか、全乗っかりなのか。
私は割と冷めた目で目次を読んでいました。
かなり冷めていました。
農家に転身する前は「農業業界は儲かっていないけど、自分だったらそうはならない。なぜなら志や発想が従来の農家と違うからだ。」そう思いがちです。私もそうでした。
農業をやっていくうちにリアルを体感し、現実と向かい合うことで良くも悪くも丸くなります。
そんな状態になり、本書に出会うとあの頃の自分に対面したかののような感覚になります。胸熱な農業儲かるぜ本を読むとついつい反論したくなるというか、斜に構えてしまうというか、素直になれない自分が顔を出してきます。
本書は10年前の自分が読んでいたら3回も4回も読み直し、枕元に置いているような本で今の自分にとっては当たり前のこと4割、自己啓発情報商材の受け売りでは?が4割、あの頃の自分をちょっと思い出すおセンチ2割、そんな本でした。
農業・ひねくれ・リアリスト…
このあたりの要素の踏み絵的存在であり、タイムマシンのような存在でした。